VOL.6  ATP TUOR 完全攻略マニュアル
ATPツアー・インターナショナルヘッドクオーターのあるポンテベドラビーチは、フロリダ半島の東海岸にあります。マイアミを南端とするならば、丁度付け根の部分に位置し、見渡す限り白い砂浜が続く全米屈指の高級リゾート地です。フロリダ第3の街、ジャクソンビルの国際空港から車では約20分。ホップマンキャンプの本拠地であるタンパベイエリア、サドルブルックリゾートからは、まさにフロリダ半島を横断する形で、東へ向うこと約4時間。途中、ディズニーワールド、ユニバーサルスタジオやフロリダシーワールドのあるオーランドを横目で見ながら、デイトナビーチで大西洋岸につきあたり、そこから北上を続け、ほぼノンストップでポンテベドラビーチに着くことができます。
 ローカルの地図を頼りにATPツアーブルバードと名付けられた道を右折すると、20メートルはゆうにあると思われる大きな看板に、まさしくあの見慣れたATP-TOURのロゴマークが目の前に現れ、ついにやってきたなといった一種の感動が沸き起こりました。目の前には渡米前にあらかじめ準備しておいた資料の写真とまったく同じ光景です。今まさに現行ツアー制度における総本山ともいうべき、ATPツアーの本部にたどり着いたのです。
ATPとは、1991年”選手の、選手による、選手のため”のツアー組織として発足した、アソシエーション・オブ・テニス・プロフェショナルの略です。
 かつてのアメリカデビスカッププレーヤーとして活躍したチャーリー・パサレルをはじめとしたメンバーを中心に、元ツアープレーヤーだった人達が、組織を作りスポンサーを集め、トーナメントの運営やランキング制度を確立している。また賞金のブレイクダウンをシステム化し、ポイントによるトーナメントのレベル分け等、従来の制度を根底から変革してゆこうとして出来上がった組織であり、当時は心から声援したい気持ちで一杯でした。
 そして、その本部をあえてニューヨークやロンドンに据えるわけではなく、リゾート地として有名なフロリダに置き、(ちなみにゴルフのPGA-TOURの本部はとなりの敷地内にあります)かつその器のなかには4大メジャートーナメントと同様のサーフェスを全て用意し、フィットネスルームも完備し、アメニティエリアも充実させて、ツアーを回っているプレーヤーたちの試合と試合の合間の調整ができるところとしての準備体制を持ち備えてた全ての設備がとっても充実しています。こうして選手たちへのバックアップはきちんとおこなっていこうとする施設を作り上げたのだと思います。
 ここではインターナショナルテニスウィークリーというオフィシャルニュースを週刊として発行する機能までも併せ持ち、週毎に変わっていくランキングやトーナメントの結果、情報、各種イベントのお知らせなどATP-TOURに関する様々なニュースを発信するということまでもおこなっているのです。もちろんホームページもありますが、これまたものすごく奥が深い。www.atptour.comです/是非ご覧になってみてください。
 まさにテニスにおける理想郷といえるこの地、ホップマンキャンプももちろんのこと東海岸方面に渡米する機会があるならば、是非一度訪れてみたいところだと思っていました。
いざ潜入!
 ATP-TOURブルバードからテニスコートを左手に見て入口へと向かう。
 車寄せのあるエントランスには、つい先日行われたATPシニアツアーのドローボードが未だ撤収されずに残っており、いやがおうでもこの地にきたという実感。
 クラブハウスに入るとすぐに受付があり、1階はプロショップになっています。ATP-TOURでは、オリジナルロゴマークの使用をオリンピックのスポンサーと同様に、1業種・1社としていて。ラケットはスノワート、ボールはペン、ウエアー、シューズ、バックはアディダス、というように各社が契約をし、そのマークの入った商品を製造、販売しています。これはワールドワイドの契約なので、世界中どこでも購入することができます。プロショップの商品構成もアディダスの製品が50%を占めていますが、残りの50%はここでしか手に入らないオリジナルグッズが所狭しとディスプレイされています。松岡修造君が遠征の時に来ていたりしたG-ジャンや(背中にあのマークがデカデカと刺繍されたもの)、T-シャツ、キャップ、トレーナー、ハーフパンツなどは言うに及ばず、キーホルダー、タンブラー、マグカップ、ステッカー等の小物も充実したラインナップで見ているだけでも十分楽しくなってしまいます。
 コテージで早速着替えを済ませコートに出ると、もうそこにはローズウォールがローチがリーセンがいた。本物だ!
 レジェンドたちがユーモアたっぷりに自己紹介し、その後、僕たち54人はコートに割り振られた。
 1面に対し、レジェンドが一人。ドリルの内容によってはランチのアシスタント・コーチがつく。コートの中に生徒は6人しかいない。僕のコートはまずトニー・ローチがコーチでボレーの練習だ。いきなり憧れのローチだ。ローチだぞ!十分にストレッチをしたとはいえ、ローチの矢継ぎばやの球出しにゼーゼー、40分が経過し、となりのコートにローテーションする。
 ここにいたのはローズウォールだ。このコートでの練習はストローク。2人の生徒が打ち返すボールをローズウォールは自らが練習しているような小気味のいいフットワークで、もうほとんどのボールがベースラインに返ってくる。ここでの40分で鈍った身体はもうヘトヘト。しかし、次のコートにはリーセンが待っている。リーセンはリターンからのラリーを受け持っている。リーセンがセカンドサーブからネットダッシュ、生徒はそれをリターンから組み立てる、というドリルで、彼はすでに80分間ネットダッシュを繰り返しているのにまったくバテた様子がない。もうすべてが夢の連続、驚きの連続だ。
 ポンテベドラビーチの地名入りオリジナルグッズは何といってもここでしか手に入らない。昨年からは、A.T.P.TENNIS CLUBというプリントを施されたオリジナルウエアーも登場! 物欲を掻き立てられるアイテムがめじろ押しであります。4月の1ヶ月間が”ショッピングパワー”と呼ばれるセールの期間で、サイズ等はばらつきがかなりあるが、格安価格で展示されるらしい.....
 通信販売の発祥の地アメリカであるからもちろんメイルオーダーで購入することもできるので、興味のある方は是非問い合わせてみると良いでしょう
ATP-TOUR INTERNATIONAL HEADQUARTERS
200 ATP TOUR BOULEVARD
PONTE VEDRA BEACH FLORIDA USA 32082
PHONE; 904-285-6400
FAX; 904-285-2284

クラブハウスは、敷地の中のちょうど真ん中に位置しています。そのため、2階にあるレストランとバーからは全てのコートを見渡すことができます。室内の装飾はフロリダらしく南欧風の落ち着いた雰囲気に包まれ、壁面には現役時代のジョン・マッケンロー、ステファン・エドバーグ、ジミーコナーズらの大きなパネルが飾られ、また入口のところにはATP CHAMPIONSHIPSのクリスタルトロフィーが鎮座ましまし、まさしくテニスの中心地にやってきたんだなと感無量になるひとときでした。
 アダルトキャンプに入る前夜は、ここのバーで”ウエルカム・カクテル・レセプション”で迎えられるとのことです。
 建物は地上2階建、地下1階となっていて、その地下の施設がまた充実しています。
 まずはフィットネスセンターがあり、ノーチラス、トレッドミル、ライフサイクル、ステアーマスターといったマシーンが所狭しと並べられ、トレーナーまでも常駐しています。トーナメントを回っている選手たちのコンディション調整にも、これだけの器具が揃っているならば十分ではないかと思われます。
 次に紹介するチャンピオンズ ロッカールームと称されたところにはサウナ、ジャグジーのような小さなプールまであり、その設備の充実さには目をみはるものがありました。
 極めつけはお子様預かり部屋(保育室)=KIDS ROOMというところまであり、まさに至れり尽くせりといったところなのです。
テニスコートは全部で19面あります。先にも述べた通り全てのグランドスラムのサーフェスを備え持ち、クッションハードコート(全米オープン)が7面、天然芝のコート(ウインブルドン)が2面、アンツーカーコート(フレンチオープン)が2面、とアメリカならではのグリーンクレーコートが8面という充実さと常にトップコンディションに整備されているのです。そのなかで、センターコートは2000席分のシートがあり、シニア、ジュニア、エキジビションなどのトーナメントが定期的に開催されているそうです。
 ツアープロの立場にたって様々なサーフェスを準備し、選手のために提供していこうとは、こころにくい配慮でした。
 ビーチまでは歩いて5分くらい。まわりを緑の芝生に囲まれ、太陽がサンサンとふりそそぐ、まさしくフロリダというリゾート地の雰囲気のなかで、両サイドをゴルフコースに囲まれ、全米ホテルチェーンとして有名なマリオットホテル ソーグラス がATP-TOUR本部の宿泊提携相手としてすぐ隣に建っており、ホスピタリティーという部分に関しても十分すぎるほど満足できるところでしょう。
 実際にトッド・マーティン、マリバイ・ワシントン、スコット・メルビルなどの選手は、この近所に家を持ち、ここを主な練習場所として調整にあたっているそうです。
支配人は、かのブライアン・ゴットフリード。1977〜1980年の間のランキングでトップ10を維持しつづけ、1974・1975年にはダブルスでNo.1に輝いたことのあるプレーヤーで、30代、40代のテニスファンにとっては、とても懐かしい往年のアメリカデビスカッププレーヤーです。(余談ですが、ぼくは当時大学1年生で、彼がラウル・ラミレスとダブルスを組んでジャパンオープンに優勝した試合のボールボーイをしたことがあります。)ATP-TOURのディレクターをも兼務する彼は、ここに常駐し、ATP-TOUR本部の主催するジュニア、アダルトのレッスンやキャンプの運営等のマネージメントをする一方で、トーナメント転戦中のプロプレーヤーのコンディショニングや、カウンセリングなどの窓口としても活躍中です。
 オンコートのディレクターは、リカルド・アクーナ。チリのデビスカッププレーヤーで、ウインブルドンベスト8の実績。
 ここでは、もちろん提示されたお金さえきちんと支払えば、誰でもレッスンを受けることができます。(もちろん予約は必要であるが)その内容を紹介しましょう。

 (1)アダルトレッスン
    常夏のフロリダならではの早朝レッスンです。9:00〜11:00まで。
    一年中、毎日開かれているもので、気軽に受講することができる。
    価格もお安く、1回$15_ 入門編かもしれない。

 (2)プライベートレッスン
    こちらも2時間ごとに設定されているが、本格的な内容になる。
    コーチのランクによって受講料が変わるという、いたってアメリカ的発想のもの。
    受講者の人数によってもその価格に差があり1回$15〜50_と様々。
 どのコーチのレベルであったとしても、どこを選択しようとも、本来のATPツアーをまわっていたような選手たちがリタイアしてコーチとなり、レッスンをしてくれるわけだからそのレベルはなかなかのもの。ぼくが訪れたときにもジュニアが多く、1人で、3〜4人でと様々でしたが、その内容はかなり充実していて、コーチのレベルの高さにびっくりしてしまったというのが、正直な感想でした。

 (3)キャンプはアダルトとジュニアが併設されていますがここではアダルトを紹介ます。
    設定されているキャンプは4日間。合計13時間のオンコートでのレッスンを4種類の
   サーフェスで受講する。昼食が付き、ビデオチェックなどの机上の講議もある。
   (もちろんゴットーフリードから直接受けることができる。)
   記念のポートレートとキャンプ参加記念の非売品オリジナルTーシャツが頂ける。
   費用は$450_(宿泊費は含まれていない)

 ここでATP-TOUR本部と業務提携した宿泊先を紹介しよう。(基本的に2ヶ所)。

 (1)有名リゾートホテルチェーン”マリオット”のソーグラスでの
    ”チャレンジャーパッケージ”と称された割り引きパッケージ。
    一泊二人で泊まって$98〜 もちろん ATPツアーグッズのお土産付き。

 もっと安くStayしたいという人には

 (2)全米モーテルチェーンの”コンフォートイン”オーシャンフロントでの
    ”チャレンジャーパッケージ”という割り引きプラン。
    一泊二人で泊まって$60〜 こちらもATPツアーグッズのお土産付き。
    これならリーズナブルだろう。

 話を本題に戻して

 (4)グループテニスパッケージ
    2〜4人で申し込むと受けることができるプランで、内容は3種類。
    価格は以下の通りである。
    【オ−ルサ−フェスチャレンジ!】 $39_
     全てのサーフェスでプロのレッスンを受講できるもの。
    【ザ エース!】 $34_
     自分の好きなサーフェスでレッスンを受講できるもの。
    【ザ ボレー!】 $19_
     プロのチョイスはできないが好きなサーフェスでできる。

といったように様々なプランが用意されており、テニス好きにはたまらないくらい至れり尽くせりなのです。
 ATP-ツアーが発足し、この施設ができたという話は色々な方々から聞いてはいましたが、これほどにも素晴らしいものだとは思ってもみませんでした。テニスという宗教があるならば、ここはまさしく”総本山”であり、これからのテニスを考えるならば、ここはまさしく”理想郷”なんでしょう。

現在日本にはナショナルテニスセンターがあり、以前には比較にならないくらい充実した設備を備え、テニスを愛し、志しのある人達に支えられて立派に機能しています。これは本当に素晴らしい発展ではないかと思っています。資金的にもより恵まれ、より機能してくるならば、日本国内にもこういった器のものが必要になってくるに違いないでしょう。いつか日本にこんな施設ができ、世界に通用する選手がもっともっと沢山でてきて(男女ともに)、ぼくたちテニスファンをおおいに楽しませてくれることを切に願っています。
 個人でもなく、企業でもない、組織がテニスを愛するということが共通でこんなにも素晴らしいものを作り上げたこと。これを見てみたかったし、日本にも出来るかもしれないという可能性を確認しにやってきましたが、そしてその手応えは十分すぎるほどあったと確信しています。

 ATP TOUR HEAD QUARTERを訪れて。

 

この記事は月刊テニスジャーナル誌で連載されました。文・写真/八田修孝