VOL.1 サマータイム・イン・アメリカンテニス
4月第1週の月曜日から10月第3週の日曜日までの約半年間、アメリカではサマータイムに突入します。サマータイムに関しては、ここ数年我が国でも導入にかかわる論議が飛び交っていますが、要はこの日と定めた日から朝が1時間はやく始まると言うことです。従って朝の苦手な人にとっては、きのうまで7時に起きれば良かったのが、今日からは6時に起きなければならず、普段不摂生を続けている人にとっては誠に持ってうらめしきルールなのであります。
 ですが、裏返してみるといつまでたっても夜にならないわけで、(8時でも未だ明るいので)アフター5の使い方がテニスをするしないにかかわらず、何ごとにつけても非常に有意義かつ幅広い展開に持ち込むことができる訳なのです。
 今年の日本ように熱帯夜が何日も続き、朝の5時くらいに目が覚めてしまったとき、ああこれから家を出るまで何をしようかナと思ったことがありませんか。
 日照時間と生活時間との差なるべく近付けるためのひとつの方法がこのサマータイムであり、太陽と共に目ざめ、日没と共に休むという人間本来の一日の過ごし方なのではないかと思う訳です。
 今回は6月10日から約2週間ニューヨークからフロリダ、サンディエゴ、ロスアンゼルス、サンフランシスコと、それこそ駆け足でアメリカ大陸を縦断してきましたが、どの土地へ行っても、日中のテニスコートでプレーをしている人の姿が全く見ることができず、この国のテニス人口はいったいどうなってしまったんだろうと、懸念していました。がしかし6時を過ぎたころから、どこからともなく人が集まってきて、テニスコートは順番待ちが出来る程の大盛況となってしまうのです。
 避寒地として有名なフロリダの夏であるならば、日中の猛暑な時間をさけて日没近くからナイターを点灯させてプレーするというのは充分分かる話ですが、今回訪れたどの土地でもこんな光景を目の当たりにしました。
 9-5で仕事をきちんとしてから日没まで3時間以上あるわけですから、アフター5に自分のやりたいことがしっかりできる、このサマータイムに羨望感を感じずにはいられませんでした。
ロスに勤務する、私の友人のとあるビジネスマンは、いつもニューヨークのオフィスと同じ時間帯で仕事をしています。ニューヨークとロスアンゼルスでは同じアメリカ国内ですが、時差が3時間もあり彼はニューヨークのオフィスの開く9時に合わせてロスの6時には会社に出勤しています。これはなかなか大変なことですがロスの3時には業務終了となるわけですから、8時の日没までのあいだ、週のうち月曜日には公営のコートで学生時代の友人とシングルスの3セットをこなし、水曜日には自分の入っている会員制のクラブでメンバー仲間とダブルスを楽しみ、金曜日には子供達にテニスを教え、といったテニスライフを過ごし、火、木にはワンラウンド、15ドルくらいで回ることができ、かつ自分の家から車で15分以内で行ける所でゴルフを楽しむといった生活をエンジョイしています。(勿論週末は家族サービスらしいのですが…)
 余談ですが上記の理由でロスの交通渋滞は本当に午後3時から始まるのです。
そんなわけで、もちろんナイトセッションで行われるトーナメントも沢山開催されています。今回ロス在住、早稲田大学OBで元プロプレーヤーの立野彰一さんを訪ね彼を含む家族が全員入会しているペニンスララケットクラブという、ロス郊外の大平洋を見渡すことのできる素晴らしいロケーションのクラブで行われた、マルゲリータナイトというトーナメントに参加してきました。この夜7時、その日の仕事を終えたビジネスマンやその家族が早めの夕食を簡単に済ませた後、三々五々とクラブに集まってきます。クラブハウスのカウンターにはマルゲリータが用意され、それぞれに勝手に頂きながらヘッドコーチから実力に合わせたオーダーオブプレイが発表されると、皆コートへと向かいます。ミックスあり、男女各ダブルスありで、各人が必ず1セットマッチを3試合楽しむことができるといった夜でした。終わったあとにはまたもやマルゲリータのグラスを傾けながら、雑談懇親会と云った具合。東京のテニス事情はどうだとか、伊達は今何をしているの?なんて話をしながらしばし国際交流と相成りました。
(お恥ずかしながら私、全勝させていただきました)
プライベートクラブのトーナメント、そのファッションもなかなかおしゃれです。特に女性はワンピースあり、上下をきれいに合わせて(もちろんスコートです)つま先まできちんとコーディネートしています。男性もポロシャツに少し長めのパンツで、年長の方でもオシャレに敏感!メーカーのファミリーセールで奥さんが買ってきたテニスウエアーでいいや、なんて感じは微塵も感じさせません。ある意味では社交場的な部分の多いプライベートクラブではテニスを楽しむことはもとより、家族と夕食をとりに来たり、プールとジムを使用する為であったり、はたまたクラブハウスでポーカーをやるために寄ったりといった過ごし方もありで、今現在の史上空前とも言えるアメリカの好景気に見られるようにとってもゆったりとした、余裕をも感じました。(もともと彼等のクラブライフそのものが そうであって好景気はとは関係ないものだとも思いますが)

今回もまた国会では見送りになったようですが、このサマータイム法案。経済効果がどうのこうのと言われてはいますが、そんなことよりも精神衛生上非常に効果のあることなのではないかと思えてなりません。余暇の為に仕事をしている訳ではないにしろ、今日の仕事が終わってから、ご飯を食べに行ったりとか、飲みに行ったりとかではなく、
今日仕事が終わってからテニスでもしようヨ!なんて会話が飛び交うようなそんなゆとりがあってもいいのではないかと思いますし、現在の日本のこのような経済状況下、せめて精神的にだけでも余裕のある毎日を送るためにも是非我が国にもサマータイムを導入されることを再検討したもらいたいと思っているのはボクだけでしょうか
 
次号ではロス在住の元プロプレーヤー立野彰一君のロス的テニスライフと現在の実業家ぶりをリポートします。


この記事は月刊テニスジャーナル誌で連載中されました。
文・写真/八田修孝